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庚申塔(こうしんとう)とは、中国由来の庚申信仰に基づいて建てられた石塔で、青面金剛や猿田彦神を祀り、無病息災・延命長寿を願う民間信仰の象徴です。
江戸時代には庶民の間で盛んに信仰され、全国各地に庚申塔が建立されました。
庚申信仰の起源と意味

三尸虫と庚申の日
庚申信仰は中国の道教に由来します。
人の体には「三尸虫(さんしちゅう)」がいて、60日に一度めぐる庚申の日に天に昇り、帝釈天へ人間の悪事を報告し、寿命を縮めるとされていました。
守庚申(庚申待)の風習
そのため人々は、庚申の日には眠らずに徹夜して虫の活動を防ぐ「守庚申(庚申待)」という風習を守りました。
これが後の庚申講・庚申塔へとつながっていきます。
日本での庚申信仰の広がり|平安時代の貴族から江戸庶民へ

庚申信仰は平安時代に伝来し、陰陽師や貴族に受け入れられました。
当初は「寝ずに身を慎む行」でしたが、やがて酒宴で徹夜する行事へ変化します。
武士の間を経て江戸時代には庶民に広まり、町内単位で「庚申講」が組織されました。
その記念や供養として建立されたものが庚申塔です。
庚申塔に祀られる神様|青面金剛・猿田彦神・三猿
庚申塔には、時代や地域によって異なる神仏が祀られました。代表的なのは以下の通りです。
青面金剛(しょうめんこんごう)

- 仏教系の尊格で、病魔を祓い無病息災をもたらす神。
- 庚申塔の本尊として最も多い。
- 彫刻には、鬼のような顔・武器を持つ姿・足元の邪鬼を踏みつける姿などが見られる。
猿田彦神(さるたひこのかみ)

- 日本神話で天孫降臨を導いた神。
- 道の神・境界の守り神として庚申塔に祀られる。
- 道祖神信仰と混ざり合った例も多い。
三猿(見ざる・言わざる・聞かざる)

- 「庚申」の「申(さる)」にちなみ、猿が刻まれる。
- 悪事を見ない・言わない・聞かないことを象徴し、信仰のシンボルとなった。
その他
- 帝釈天(道教起源にちなむ)
- 地蔵菩薩や釈迦如来(仏教系の尊格)
庚申塔のご利益|無病息災・延命長寿・厄除け

庚申信仰の目的は「三尸虫の告げ口を防ぐ」ことでした。
そこから次のご利益が信じられました。
- 無病息災
- 延命長寿
- 厄除け・悪疫退散
江戸時代の庶民信仰とその衰退

江戸時代には庚申信仰が最も盛んとなり、全国各地に庚申塔が建てられました。
しかし大正期以降は急速に衰退し、都市開発による区画整理で多くが失われました。
現在は一部の神社仏閣や田舎の道端に残るのみです。
例として、東京都渋谷区の豊榮稲荷神社には多数の庚申塔が保存され、貴重な信仰遺産となっています。
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まとめ

庚申塔とは、庶民が健康や長寿を願って建てた信仰の遺産です。
元は中国の道教に起源を持ち、日本で仏教や神道と結びつきながら民間信仰として発展しました。
祀られる神は青面金剛や猿田彦神をはじめとし、三猿の姿も庶民に親しまれてきました。
今日ではその数を減らしましたが、庚申塔は日本の宗教文化の習合を物語る存在です。
街角で庚申塔を見かけたら、ぜひその歴史を思い起こしつつ「無病息災・長寿」を祈ってみてはいかがでしょうか。





